素材企業が拓く「量子コンピュータ」の未来

QunaSys × アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社

はじめに

ごく最近まで、「量子コンピュータ」という言葉は、「タイムマシン」と同じくらい空想に近い“遠い未来の技術”というイメージで受け止められていました。GoogleやIBMといったビッグプレイヤーが取り組んでいる記事を目にすることはあっても、素材業界にとって、今のうちに取り組んで、流れに乗るべき技術として認識されてはいませんでした。しかしながら、ここ数年の開発投資の急速な拡大や技術的ブレイクスルーにより、実用化に大きく近づきつつあるだけでなく、素材分野がその本命用途としても位置付けられるという認識がようやく浸透して来たように見受けられます。
素材企業が実際にその恩恵を受けるまでには、もう少し年月を要すると見込まれる一方で、米議会が2018年12月に開発促進法案を可決し、中国も2020年に大規模な実験施設を開設するなど、開発競争がいよいよ激化の局面が間近に迫りつつあります。将に、量子コンピュータに真正面から捉え、素材業界にもたらす影響を理解し、その活用方向性を真剣に考える時期が到来したと言えます。
量子コンピュータの技術開発は、コンセプト提唱から30年以上の年月が経った現在でも、理論物理学者が中心的役割を果たす状況が続いています。そのために、本命用途である筈の素材業界が持つ課題に踏み込めず、具体的な活用方向性に関する議論が十分に進展している状況に至っていないのが現実です。残念ながら、折角大きな恩恵に与れる筈の素材業界にとっての可能性は不透明なままであり、「本当に恩恵があるのか?」「あるとしたら、どのような領域なのか?」といった、基本的疑問に対しての、明快かつ具体的に答えはいまだ用意されてはいません。
本稿では、長年イノベーションの実現を支援するとともに、素材業界の多くの企業の悩みや課題解決に取り組んで来たアーサー・ディー・リトル(ADL)の経験および知見を活用し、量子コンピュータの得手不得手を整理した上で、具体的な活用の方向性やインパクト、及び素材企業としての構えや想定されるリスクへの備え等について考察を試みます。読者の「量子コンピュータ」の現状と将来の可能性についての理解が深まり、大きなチャンス向けて、一歩踏み出して頂くきっかけになることを期待しています。

量子コンピュータの基礎

量子コンピュータの歴史は、1981年にRichard Feynmanがアカデミックコミュニティにて投げかけた「量子理論に基づくコンピュータ」というアイデアに基づき、85年にDavid Deutschが基礎コンセプトを提唱したことに端を発する。以来、2000年代前半までは、アカデミックを中心として理論構築や、実証実験が進められてきた。一方で、1999年、当時NECに所属していた中村泰信氏と蔡 兆申氏により、世界で初めて超伝導回路による量子ビットが実現。その後は量子ビット実現技術についても開発が進み、2011年のD-waveの量子アニーリングマシン公開などを経て、量子ハードウェア技術の研鑽が進められ、85年の基礎コンセプト提唱から30年以上の年月が経った今、ついに「汎用マシン」の実用化への道筋が見えてきたとされる。もちろん、既にD-wave社の量子アニーリングマシン等が実用化されてはいるが、いわゆる、「古典コンピュータを凌ぐ性能を実現できる汎用マシン」としての量子コンピュータについては、その実用化に向けてGoogleやIBM等のプレイヤーが開発競争に凌ぎを削っている最中であり、ようやく、“実現までの道筋が見えてきた”段階であると理解すべきであろう。
量子コンピュータの位置付けは、図1のように整理される。様々な概念が飛び交い、それらが混同して語られることが技術理解を難しくしているが、上で述べたように、イジング問題専用マシンと汎用マシンは区別して考える必要がある。量子アニーリングマシンは、「量子系を実験できるデバイス」として捉えられるため、D-wave社等が量子アニーリングマシンを活用した材料開発に取り組む動きも見えつつあるが、基本的には組み合わせ最適化問題を解くためのマシンである。一方で、汎用マシンとしての量子コンピュータも、近年、飛躍的に性能が向上しつつある。こちらは、イジング問題以外にも活用することができ、量子化学計算、最適化、機械学習、データ探索等への応用が見据えられている。ただし、現在IBM等によって実用化されているのは、ノイズの多い「NISQ (Noisy-Intermediate Scale Quantum computer)デバイス」であり、この前提の下において種々の応用が議論されていることに留意する必要がある。本当の意味で古典コンピュータの性能を凌駕する量子コンピュータが実現するのは、20年以上先となる見込みであり、暗号解読やデータ探索に活用できるのは、その後であるとされる。

図1. 量子コンピュータとアニーリングマシンの位置づけ理解

一方で、量子化学計算についてはNISQデバイスでもある程度はカバーできる可能性があり、カナダのAlan Aspuru-Guzik教授がNISQで量子化学シミュレーションを実行するためのアルゴリズムを発表して以来、専用アプリケーションの開発が急ピッチで進められている。国内においても、QunaSys等、NISQを使った量子化学シミュレーション向け専用アプリケーションを開発するスタートアップも増加しつつあり、一部、国家プロジェクトとして予算配分も進んでいる段階である。
図2に、励起状態解析における、誤り訂正量子コンピュータ及びNISQデバイスと既存計算方法の得意領域比較を示す。この図からわかるように、対象電子軌道数が100以下の領域であれば、NISQデバイスであっても、古典コンピュータを用いた既存計算手法(DFT等)よりも優位性を発揮できる可能性が高い。

図2. 誤り訂正量子コンピュータ及びNISQデバイスと既存計算方法の得意領域比較例

本稿では、量子コンピュータのハードウェア実現技術の詳細は割愛するが、おそらくかなり先を見据えても、実現コストの観点から、量子コンピュータが「パーソナル利用」となることは想定しづらい。NISQデバイスも、20年後の真の量子コンピュータも、基本的には「クラウド利用」もしくはスパコンのような「タイムシェアリング利用」となることが前提である。後段で詳述するが、材料開発への応用を考える際には、この「クラウド利用」「タイムシェアリング利用」前提という性質も、一つの論点となる。
では、そもそもの前提として、これまでのコンピュータ(古典力学で動くので古典コンピュータと呼ぶ)との比較の中で、「量子コンピュータの強みが活きる領域」とはどう定義されるのであろうか。通常のデータ集計にスパコンが不要なように、古典コンピュータで“事足りる”領域については、高価な量子コンピュータを利用する必然性は低い。この問いに対して、現在、専門家の中で有望視されている「対象とすべき問題」は、以下の二つである。

① 量子スケールの事象が関連する問題
➣ 素材(電池・エネルギー貯蔵等含む)の材料探索・機能制御
➣ 製薬の材料探索・機能制御

② 量子の原理を活用するとうまく解ける構造を持つ問題
➣ 機械学習高速化(の一部)
➣ 組み合わせ最適化(の一部)
➣ 素因数分解
➣ 暗号解読

ここで、①の製薬・素材については、量子スケールの事象に踏み込む必然性に違いはあれど、潜在的には、材料探索・制御に関わる問題は全て対象となりえる。一方で、②については、対象産業が幅広いように思えるが、適用可能な問題は①と比較すると限定的である。つまり、(今後20-30年の)量子コンピュータとは、基本的に、製薬含む素材産業のためのものなのである。
量子コンピュータの歴史を振り返ると、“物理”の一領域として理論的な研究が先行した時代が続いた後、近年になって、“コンピュータ”として実用化することを見据えて、ITビッグプレイヤー(Google, IBM, Microsoft, intel等)が加わり、ハードウェアの開発が急速に進められた。ハードウェアとしての見通しが立つにつれて、ソフトウェア開発も勢いづき、いよいよ、コンピュータとしての準備が整った2017年頃から、“製薬”や“素材”関連のプレイヤーが、実用を見据えて利用を開始し始めた、という経緯を辿っている。ただし、理論・ハードウェア・ソフトウェア、及びそのユーザー(使う側)の、全てが未成熟、かつ互いを理解できていない状態にある。今後の実用化に向けては、基礎となる「物理」の進化に加え、「コンピュータ」としてのハードウェア・ソフトウェアの進化、また、「化学」の中での使い方の進化、という3領域の進化の連携が必須であり、研究開発としても高度なマネジメント(学際・業際領域のマネジメント)が求められることも、量子コンピュータ技術を捉える上での重要論点として挙げておきたい。(図3・図4)

図3. 量子コンピュータの研究開発要素
図4. 2018年時点での量子コンピュータに取り組むプレイヤー

素材における活用

では、素材にフォーカスすると、どのような応用可能性が見据えられるのであろうか。この問いに答えるためには、まず、「古典コンピュータの世界」でどのような量子化学シミュレーションが行われているかを整理した上で、そこで解ききれない問題とは何か、を考える必要がある。
そもそも、量子化学シミュレーションが適合する領域とは、シュレーディンガー方程式を解く必要がある領域である。シュレーディンガー方程式の解である波動関数は、電子の挙動を含む全ての量子状態を決定するため、言い換えれば、「電子相互作用を厳密に制御する必要のある領域」については、量子化学シミュレーションが適合しやすいと言える。さらに具体的には、物質間の相互作用や、エネルギー準位の精密制御が求められる領域等が適合性の高い領域として挙げられる。
当然、厳密に量子化学計算を解くことができない古典コンピュータにおいても、これまで、上記領域に対してアプローチが行われており、下記のような近似計算手法が確立されつつある。
➣DFT法(密度汎関数法)
➣量子モンテカルロ法
➣テンソルネットワーク法

特に、DFT法についてはGaussian等を通して広く用いられており、実際に材料探索にも活用されている。一方で、DFT法を始めとして、上記手法にも限界が存在するため、下記のような複雑系については、「解きたいが解けない」状況となっている。

➣ 分子相互作用の特定が必要な系
➣ ファンデルワールス力の精密制御が必要
➣ より低エネルギーの反応経路探索が必要
➣ 励起状態の特定が必要な系
➣ エネルギー準位(バンドギャップ)の精密制御が必要
➣ 電荷移動の精密制御が必要
➣ 複雑な界面を持った系
➣ 電子同士が強い相関を持った系(磁性材料等)

これらこそが、量子コンピュータの最初のターゲットとなると考える。上記複雑系に含まれる電池や触媒、太陽電池、熱電変換、製薬、等の材料は、組成で勝負が決まることが多く、膨大な組み合わせの中から優位性の高い「組成」を見つけ出すことの付加価値は相対的に高い。
とは言え、市場ニーズが小さければ、企業として材料探索に投資する意義は見出せない。では、量子コンピュータの適合性が高く、なおかつ市場ニーズも見込まれる領域はどこか。図5に、素材と関わりの大きな産業領域、各領域の重要トレンド、及び各トレンドに紐づいて今後ニーズの高まりが想定される材料の中で、量子コンピュータが対象とすべき系を含むものを列挙している。これら材料は、市場インパクトが見込まれる一方で、既存の開発手法では性能限界に達してしまっており、量子コンピュータを含むシミュレーション技術を活用した材料探索に取り組む意義が高い。

図5. 素材業界が見据えるべきトレンド及び量子コンピュータの貢献余地

量子コンピュータは、基本的には開発効率化により対価を得る技術と想定し、図5右欄に量子コンピュータの経済インパクトも示す。主要材料合計で(2030年の市場規模を前提とすれば)最大1兆円弱インパクトを見込む。もちろん、量子コンピュータを活用したからと言って、開発効率化が約束されているわけではない。また、有力な組成が発見されたからと言ってすぐさま製品が実現するわけではなく、その後に量産開発や原料調達等の課題も残されている。それら前提を正しく認識する必要はあるが、少なくとも、上記経済インパクトに対して、自社としてそもそも取り組むべきか、取り組むとすればどの程度の開発投資を投入すべきか、その中で量子コンピュータを活用する意義がありそうか、という視点で取り組み是非を議論することはできるのではないだろうか。

素材業界として必要な構え

前項までの議論の通り、素材業界にとっての量子コンピュータとは、量子化学シミュレーション活用の延長線上(もしくはその途上)に位置づくものであり、特に、電池、触媒、エネルギー変換材料、製薬等、優位性の高い「組成」を見つけ出すことの付加価値が高い領域においては、「開発の効率化」「新市場の創出」という観点で、実効的なメリットをもたらし得る可能性がある。 
しかし、先に述べたように、成功が約束されているわけではないこと、また、未だ技術が発展途上であり技術の完成という意味でも不確実性があること、等が量子コンピュータに取り組む際のハードルとなっている。よほど体力のある企業でも、現状では、専任技術者を1名配置することすらためらわれるのではないだろうか。
一方で、序章で述べたように、量子コンピュータへの投資は世界的にバブルに近い様相を呈し始めており、開発競争は激化の一途を辿っている。日本は、初期の理論やハードウェアでは先行した時期もあったが、2019年現在では、出遅れている感は否めない。これまでもいくつかの技術領域で起きたように、有用性が認識されたときには既に勝負がついていた、という状況になりかねない構造が形成されつつある。それが、IT等の新興技術領域であればまだ看過もしやすいが、日本が伝統的に世界に強みを誇ってきた素材の、強みの根底を覆しかねない技術であるだけに、この状況には一種の不気味さが漂う。
このような状況に対して、日本の素材業界は、どのような構えでいるべきか。筆者らが考えるあるべき姿は、関連プレイヤーをスポンサーとした「半オープンコミュニティ」の創出である。学生や企業の技術者が平日の夜や週末に集い、利害抜き・かつ本気で可能性を模索する。そこで得られた成果は、基本的には特定の主体に帰属させず、コミュニティに属する人間であれば自由に活用できる形とすることで、余計な駆け引きやトラブルを防ぎ、純粋な「技術の発展」を追求する。先に述べたように、量子コンピュータの技術開発は、「物理」「コンピュータ」「化学」の3領域が高度に連携して進めていく必要がある。幸い、日本は狭い国内の中に3領域全てについて、世界的に戦えるレベルの基盤(人材・開発拠点)を持ち合わせており、特に、機能材料の研究開発拠点が集中していることは、他国に対するユニークなアドバンテージとなる。一方で、“企業”や“大学”の色を最初から強く出しすぎると、「取らぬ狸の皮算用」が横行し、技術開発が停滞しかねない。このような、発展途上かつ各プレイヤーの連携が必要な領域においては、まずは研究者・技術者の「純粋な好奇心」「自主性」に委ねた技術開発がなされるべきであり、現在のような、担当者が“企業の名前を背負い、成果を期待されて”実施するオープンイノベーションは機能しにくいと考える。企業としては、むしろ、そのような場の提供(スポンサーシップ)、及び自社の従業員がそのような場に貢献したことを評価できる仕組みを整備すべきであり、それこそが、終身雇用を前提とする社会システムを持ち、なおかつ長期的な技術開発が求められる「ハードウェア」を主戦場とする我が国において、持続的にイノベーションを創出していく上で必要な姿勢であると考える。

想定されるリスクへの備え

これまでの章では、主に量子コンピュータの可能性側に目を向けて考察を行ってきた。では、量子コンピュータ利用が広がっていく中でのリスクとしては、何を想定すべきであろうか。
素材企業での利用という観点で、現時点で想定されるリスクは、主に三つと考える。
① クラウド利用による研究内容・成果の漏洩リスク
② プラットフォーマー・ソリューション提供者への付加価値集中
③ 材料開発のルールチェンジ・陳腐化

直近5-10年間で、まず問題となりえるのは①であろう。序章で述べたように、量子コンピュータはかなり長期まで見据えたとしてもクラウド利用、共同利用が基本であり、管理者側から情報を閲覧されるリスクはゼロにはできない。オペレーション効率化の意味で活用されてきたプロセスシミュレーションであれば、多少の情報の漏洩は大きな問題にはならないが、シミュレーションの対象である分子構造そのものが価値となる材料探索においては、大きな問題となりえる。ただし、これについては、(ハイスペックの)スパコン活用においても同様の問題は存在しているため、全くゼロから考える問題というわけではない。まずはスパコン活用時と同様の対策・工夫を講じた上で(もしくはこれまでの運用における課題を洗い出し、対策を講じた上で)、情報漏洩時の責任の所在等を改めて管理者側と議論し、ベストプラクティスを作り上げていく姿勢を持つ必要があるだろう。
また、長期的には②及び③のリスクの方が、より本質的に素材企業を脅かすことになる。これは、マテリアルズインフォマティクスも含め情報が絡む領域全般に言えることであるが、データやシミュレーションビジネスの肝はN数の獲得=プラットフォームの構築にあり、本質的にそこに付加価値が集中する構造となる。よって、プラットフォーム利用者が獲得できる付加価値は(プラットフォームがない場合と比較して)相対的に減少し、なおかつ同じプラットフォーム利用者との差別化も利きにくくなる。そうなると、「新規材料探索」そのものの価値は今後ますます低下し、プラットフォーマー及びそれを利用して革新的なソリューション(例えば、オンデマンドでの材料提供)を提供できるプレイヤーに付加価値が集中することになる。実際に、マテリアルズインフォマティクスの領域では、新しいビジネスモデルが模索されており、米ベンチャー「QuesTek Innovations」は、合成前の材料の性能を計算で予測しコンセプト特許を申請、その技術が実際に事業化された際に特許料収入を受け取るビジネスを展開しようとしている。量子コンピュータ周辺でも、同様のことは十分起こりえる。そのように、同じ量子コンピュータプラットフォーム利用者との差別化が難しくなる世界が到来する可能性を認識した上で、自社として、差別化の源泉となる強み・ポジショニング(材料探索・製造・品質保証・ソリューション、等)を明確化し、その強み・ポジショニングを強化する方向で量子コンピュータ活用ノウハウを蓄積していく必要があるのではないか。例えば、これまでの実験データや“勘”の蓄積、もしくは計算結果に基づいた試作・評価、効率的な量産プロセスの実現、等では日系プレイヤーの強みが活きやすい。そのような強みを、次の世界でどのように再定義するか。それによって、必要な備えも異なってくる。
また、リスクという観点とは少し異なるが、認識しておくべき課題として、
① 既存のシミュレーション技術(古典コンピューターの世界)との繋ぎこみの実現
② 材料 - プロセス - 発現機能を繋ぐ、シミュレーションスキームの実現
③ マテリアルズインフォマティクスと両輪での材料開発の実現
④ 実世界との繋ぎ込みを実現する実験(評価・試作)技術の実現
を挙げておきたい。量子コンピュータ単独で考えるのではなく、これまで発展してきた各スケールでのシミュレーション技術、及び、マテリアルインフォマティクス、実験技術を包括的にとらえ、各パーツを繋いでいく試みが必要である(図6)

図6. ADLとして考える、材料開発における計算活用の世界観

「量子コンピュータ」を夢の万能技術だと吹聴するメディアも多いが、すべての技術が万能でなかったように、この数年の量子コンピュータも、“ボタン1つ”で素材企業が必要な計算全て行ってくれる万能ツールにはならない。しかし、確実に新素材開発の新しい武器の一つとなり得るものである。そのような認識を持って本技術をテーブルの上に乗せた上で、自社としての今後の「材料開発」の世界観を描き、どのようなプレイヤーを巻き込み、どのような領域の開発を進めるべきかを検討する必要がある。
さらに、留意すべき点として、(量子技術は元来参入障壁が高い領域であるが)投資が進み研究開発が盛んになった今、より高度な理論構築により各プレイヤーが差別化を図り始めており、参入障壁は更に高くなっている点を挙げたい。AIやロボットといった領域に続き、量子コンピュータを「次のテクノロジー領域」と囃し立て、業界が不自然に浮足立つ中、まだ実用化には時間を要するというのは正しい見方であるが、技術の黎明期として、可能性は見えつつあるが未だ参入余地が残る今こそ、量子コンピュータへの足掛かりを作り、他社との差別化の源泉となるノウハウや知見の蓄積を開始するのには最良の時期と言える。いずれ、その恩恵も打撃も受けることは免れない素材業界においては、この技術が及ぼす影響や自社としての構えについて、真剣に議論を行うべき時期に来ているように思われる。

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素材企業が拓く「量子コンピュータ」の未来
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